前回の小史(65)では、カトリック名古屋教区が作成した『美濃・尾張キリシタン巡礼マップ』(カトリック名古屋教区宣教司牧評議会殉教者顕彰委員会編、2022年2月)をご紹介した。このマップは、名古屋教区のホームページ内にある「資料室」から無料でダウンロードできる。地図としての使いやすさに加えて、各史跡の背景を簡潔にまとめた解説が添えられている。初めてキリシタン史跡を訪ねる人でも、どんな場所なのか、どのような歴史があったのかがひと目で分かるよう工夫されており、手元に置いておくと役立つ資料ではないだろうか。
今回は、そのマップの基礎資料となった書籍『東海・北陸のキリシタン史跡巡礼 あかしする信仰』を取り上げたい。発行元はマップと同じくカトリック名古屋教区宣教司牧評議会で、刊行は2012年。教区内の信徒や関係者向けに作られた書籍のようで、全256ページのフルカラー版である。写真や図版も多く、読み物としても資料としても充実している。現在の入手方法ははっきりしないが、私は古書店の通販サイトで偶然見つけることができた。関心がある方で入手できない場合でも、同じく名古屋教区のホームページ内にある「資料室」から全ページを閲覧することができるため、内容を知るうえで困ることはないだろう。
この本には、東海・北陸地方に残るキリシタンゆかりの巡礼地が全部で56箇所紹介されている。そのうち東海地方に属するのは34箇所で、地域ごとの内訳を見ると、名古屋市が5箇所、一宮市・江南市・扶桑町が15箇所、犬山市・小牧市が3箇所、あま市・清須市で2箇所、知多地区が3箇所、そして岐阜県が6箇所となっている。こうして数字で並べてみると、意外なほど多くの史跡が濃尾の地域に点在していることに気づかされる。普段何気なく通り過ぎている場所のすぐ近くに、かつて信仰を守り続けた人々の足跡が残されているのだと思うと、地域の風景が少し違って見えてくるのではないだろうか。


これまで拙稿の本小史で取り上げてきた場所も含まれているが、一覧を眺めてみると、まだ触れていない史跡が思いのほか多いことに驚かされる。キリシタン史というと、殉教事件や大名の改宗といった大きな出来事が注目されがちだが、実際には、村々に残る小さな祈りの場や、わずかな伝承として受け継がれてきた記憶が、地域の信仰の歴史を静かに支えてきた。そうした「名もなき場所」の積み重ねが、東海・北陸のキリシタン史の豊かさを形づくっているのだと改めて感じる。
まだ知らないことがたくさん残されており、機会があれば、これらの史跡を一つひとつ訪ねてみたいと思っている。実際に歩いてみることで、地形や周囲の雰囲気から、当時の人々の暮らしや祈りの姿が少しでも感じ取れるのではないかと期待している。地図や文章だけでは分からない「空気」や「距離感」を体で受け止めることで、歴史がより身近に感じられるのではないだろうか。
