岐阜キリシタン小史(19)―『尾濃葉栗見聞集』のこと①―
数年前岐阜のキリシタンのことを調べている中で、岐阜県立図書館(の二階の書架)にて偶然に『尾濃葉栗見聞集』という書物を見つけた。以来この書物のことがずっと気になっていたが、時間に余裕がなくなかなか調べることができなかった。(「岐阜キリシタン小史(4)」で少しだけ触れた。)
最近、他にいくつかの資料が揃ったこともあり、何回かにわたってこの書物のことを記してみたい。

岐阜県図書館蔵
『尾濃葉栗見聞集』とは
『尾濃葉栗見聞集』は、享和元(1801)年に吉田正直によって編まれた地域見聞録である。木曽川流域に位置する尾張国・美濃国の郡村について、伝承・地誌・宗教・災害・村落変遷などの詳細な記録が記されている。特に葉栗郡(後の羽栗郡を含む)を中心に、中島郡、海西郡、各務郡、厚見郡などを含む170件以上の事例が取り上げられている。
本書は、近世以前のこの地域の地理、宗教、文化を知る上で重要な一次資料でありと考える。特にキリシタン関連の伝承の地域的展開を研究する上で不可欠な史料と言える。
書名にある「尾」とは尾張国、「濃」は美濃国、「葉栗」とは葉栗郡のことを指す。葉栗郡は元は尾張国の郡名で、木曽川流域に広がる地域のことであったが、天正14(1586)年の木曽川大洪水により、川の流路が変化し郡が分断された。分断された東側(美濃側)は羽栗郡と改称されて、美濃国に編入された。『尾濃葉栗見聞集』では、尾張・美濃にまたがる葉栗(羽栗)地域の記録を中心に構成されている。

岐阜県図書館蔵
作者・吉田正直について
元文5(1740)年羽島郡八剱村(現羽島郡岐南町)に生まれ、父は加納藩士であったが、自身は農業
に従事し、往年は占術や加持祈祷を生業にしてい
たようである。〔「美濃のキリシタン 秘められた祈りの
証し」展(美濃加茂市民ミュー
ジアム)パンフレットより〕


岐阜県岐南町の位置(岐南町ホームページより)と
岐南町歴史民俗資料館
文:笠松キリスト教会 K